黒羽の杜

生まれも育ちも全く関係のない北関東に落ち延びた、とある漢の趣味のBlogです。

マレーの虎 ~其の壱~

こんばんは。

今年のクリスマス、皆様は如何お過ごしだったでしょうか?
私は妻と鍋と菓子で質素に...強烈に寒いのです。
山間部から吹き降りてくる強烈な冷風で手足が冷え、
寝付きが悪く昼夜が逆転しがちで、見かねた妻から電気毛布をプレゼントされました。
私は妻に「これが欲しい」と言われていた書籍を注文していたのですが、
残念ながら本日の日中に届くことでしょう...

さて、これは♀単品ということで早々にセットしないとな...
と思ってはいたものの、まだ行えていない虫がいます。

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Dorcus antaeus datei
マレーシア キャメロンハイランド Kea Farm産
WD♀39mm

マレーアンタエウスの野外品です。
本年6月に入荷し、暫く経った頃に入手しました。

キャメロンハイランドはマレーシアのパハン州にあり、
最も標高が高い山がブリンチャン山(2,031m)です。
Kea Farmは、1,610m地点にある観光地で、
標本商がいたり、古の採集記に出てくるTanah Rata(1,440m)という町から近く、
少し標高が高い所に位置しています。

昔からキャメロンハイランドでは、ホテルなどの照明に飛来したものを拾い、
大抵が♀という感じだったようですが、周囲の森林が開発で失われていき、
現在でもライトによる採集で、他種に混じり稀に得られる程度のようです。

同じくパハン州に属するゲンティンハイランドに関しては、
数年前飼育品ではないのかと思うほど立派な野外品の♂をはじめ、
ある程度まとまった数が入ってきていたため、
まだ住める環境が残されているのではないでしょうか。

幸いこの時期になってもエサ食いは良く、動いているのですが、
セットした途端に爆睡するのを、ミャンマー産やベトナム産の野外品で経験しており、
何だかなぁ...と思ってそのままです。
いつの間にか産んでいたというパターンもあるので、それを狙ってみましょうか。

似ているようで全然違う...

こんばんは。

ツノボソといえば...
「アンタエウスをそのまま小さくしたようなやつ」という印象で、
野外品の入荷もぽつぽつあり、価格も落ち着いていることから、
ブリードもそう苦労することもないのだろうと思っていました。
ほんのついこの間、現物をねっとりと観察+調べ物をするまでは...

今回入手したのはタイリクを付けずに単なるツノボソ、
あるいは台湾ツノボソ、タイワンツノボソと呼ばれるものです。
皆様はどの表記がしっくりくるでしょうか?gracilicornis(グラキリコルニス)?

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大雪山森林遊樂區 2021年7月入荷の材採集品 ♂47mm
日本語だと大雪山森林遊楽区。
所在地としては、台中市和平区雪山路18号、らしいです。

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同個体、真上より。
タイ、ラオスベトナムアンテあたりを彷彿とさせる造形です。
ただ、下に貼る3枚目に決定的な違いがあります。

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同個体の裏側です(マットが固着している...申し訳ありません)。
アンタエウスには、大顎基部にオレンジ色の毛束がありますが、
こいつにはありません。

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♀32mm
頭部にある「ドルクスコブ」は2つで、シルエットもアンタエウスに似ていますが、
上翅には明瞭な点刻列があります。

ここまでで、この虫が外見上、
アンタエウスとは全くの別物であるということを感じて頂けたと思います。

さて、次の問題はその生態に関してです。
材採集品とありましたが、どうもこの虫は広葉樹の白枯れやその根部ではなく、
赤枯れから得られるとのこと。
実際、真っ黒く完熟発酵したマットでも産まないことはないものの、
マルバネ同様に赤枯れマットで良い結果が出ているそうです。
あくまで産卵に癖があるだけで、幼虫の適応度は高く、
低温管理を前提として菌床、マットともに羽化まで持っていけるらしい...

要するに、完全なる難種スキモノ向けのやつです。
現地の気温は-5℃~18℃と、ブリードルームで再現可能な範囲です。
現状♂♀共にゼリーを食していますが、ペアリングは年明けに試みる予定です。

希釈 ~その壱~

こんばんは。

「飼育方法に正解はない」
ニジイロはまさにその好例ではないでしょうか。
順調にいく時もあれば、全く産まずに絶える時もあります。
完全なマットのみのセットを組む方もいれば、
古いカワラブロックを埋め込む方、古いカワラボトルに穿孔させる方もいます。
幼虫飼育もマット派、カワラ派など様々です。

体色を固定するためにF15、F16など、かなり煮詰まった個体がいるくらいで、
累代の進みに関しては強い虫です。
今回の個体は、著名な●●●血統(F14)×同ショップのグリーン血統で得られたCBF1。
この交配は知人のもとで行われ、意図したことはよく分かるのですが、
羽化し、私のもとにやってきた個体がこちら。

 

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♂42mm

 

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♀34mm

 

彼曰く「ドノーマル」なのですが、
「グリーン系」には仕上がったのではないでしょうか。

♂に関しては今月に入ってから後食を確認したばかり。
ペアリングまではじっくり期間を設け、来年春を予定しています。
もう1ラインいるので、そちらも追々ご紹介します。

身近な好敵手

こんばんは。

これまで本土ヒラタに関しては、県単位ですと以下の地域で採集に成功しました。

関東:栃木県、東京都
中部:静岡県富山県
中国:島根県
九州:熊本県佐賀県

西に行くに従って、個体数も濃くなる傾向にありますが、
皆様のお住いの地域ではどうでしょうか?

島根県では灯下、熊本県佐賀県では樹液で簡単に採集できましたが、
私が現在住んでいる地域では簡単には出会えません。
目撃した種類を濃さで表すと、ヒラタ<カブト<ノコ<スジ<コ
といった具合です。
栃木県ではこれまで♀を自分で採ったことがなかったのですが、
昨年の初夏、知人が仕掛けたトラップに誘引された個体から得られた子孫のうち、
一部を飼育することになりました。

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♂38mm

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♂29mm

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♀33mm

野外でこれまで出会った♂と遜色ないサイズで羽化しました。
♀に関しては、親と同じようなサイズ...

ちなみに何を用いて羽化させたかというと、
たまたま余っていたKBファーム様のAGブロックを詰め、数ヶ月熟成させたもの。
代々河川敷の黒枯れを食していたような虫には、ちょっとキツかったかもしれません。

栃木県でも60mmUPの採集報告が0というわけではありません。
菌床飼育に慣らしてサイズが伸びるのか、試してみたいと思います。

由緒正しきサディア

こんばんは。

長きにわたって累代されている有名産地のアンタエウスですが、
野外品の入荷数がどれだけあったかというと、
実はとても少なかったりします。
そのため、管理している方により累代表記はまちまちであるものの、
元を辿れば1♀に行き当たるようなものまで存在します。
パキスタンカシミールや、ウェストベンガル・タイガーヒルがその好例です。

今回紹介するサディアもまた、
元を辿れば2.5ライン、以後その掛け合わせ方により相当なバラつきが生まれ、
今に至ると思われます。

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インド・アソム州サディア産
♂79mm

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形状としてはヒマラヤ系(≒原名亜種)そのものです。

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♀45mm

かつてF10のペアで挑戦し、残念ながら幼虫を得られず絶えたこともあり、
今回のペアで再スタートです。
ブータンアンタエウスと同じショップからの購入ですが、
サディアを持ってきた業者より直で入手し、維持されたものとのことですので、
由緒正しきサディアとしてコレクションに加えました。

特異な繁殖行動&産卵セット準備

こんばんは。

以前紹介したタランドゥスのペアリングを行いました。
相手の認識はお互い迅速ですが、
♂が♀を前脚でどつく特異な繁殖行動をとるため、
足場がしっかりしていないとなかなか成立しません。
※中にはそれをものともしない個体もいるかもしれませんが...

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この状態では足場がしっかりしておらず、なかなか決まりません。

そこで、段ボール片にカッターで切り込みを入れたものを入れてやりました。

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足場はバージンコルク、樹皮の付いた産卵木、猫の爪とぎでも良いと思います。

アンタエウスなどのドルクス属のクワガタと異なり、
タランドゥスやレギウスは、対面方式でのスタートが好ましいです。

♀は成熟しており、かつ未交尾の場合、非常に意欲が旺盛で、
積極的に♂の体の下へ潜り込もうとします。
♂は♀のその動きを前脚、中脚の付け根にある毛束(感覚毛)で感じ取っているようです。

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どのクワガタにもある短い毛束(赤)に加え、オレンジ色の発達した毛束(緑)があります。
何のためにそうなっているのか、考えてみると面白いですね。

♀が正面から自分の下に潜り込んでいることを確認すると、
♂は前脚を使って♀を数回どつきます。
互いに踏ん張る足場がないと、♂はこれを思ったように行えず、
♀がその勢いでふっ飛ばされてしまうこともあります。
その後、♂はクルッと回転し、後脚で♀の尻をすり回して、
♀が尻を大きく上げると成立します。

大きい方のペア(♂66mm、♀50mm)ではすんなりと上手くいかなかったため、
同時進行で少々早い気もしましたが、小さい方(♂63mm、♀47mm)も試しました。
小さい方はやや間隔を空けて2度、5分程度の交尾を確認し、
大きい方は同じく5分程度を1度しか確認できず、丸一晩同居させました。

複数ペアいると上手く、積極的なものとそうでないものがばらけることがあります。
それゆえ、状況に応じて相手をチェンジするなどができ、安心できますね。

用品は以下のものを調達しました。

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定評のある植菌レイシ材です。

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エノキ主体のカワラタケ菌糸ビン(1400cc)

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フタを取るとこのようになっており、しっかり菌が回っています。

(有)微総研様の培養産卵材M2玉(レイシ)と、
(株)charm様のXL-POT(カワラタケ)1400ccです。
定評のある植菌材に加え、よくあるクヌギ主体のものではないカワラ菌床の二段構え。
レイシ材は少しずつ茸が伸びてきている状態、
ボトルは良い感じなもののまだ菌の勢いは強そうですので、
もう少し飼育部屋の温度で熟成させ、使ってみようと思います。

流行りの大型・極太ではないけれど...

こんばんは。

現状、ヘラクレスも原名亜種に限り、細々と累代しています。
かつてはドミニカ国産のものもいましたが、残念ながら絶えてしまいました。

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ドミニカ産の最後を飾った個体(148mmほど)
良い個体でしたが、掛けた♀が産んだ卵が孵ることはありませんでした。

 

現在管理しているラインの親♂画像に関しては、
羽化時期を合わせる目的で随分と小さな個体になってしまったため残っていません。

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グアドループ産 WF8
現在管理中のWF9世代の親♀です。

このラインですが、最後に入ってきた野外品の直系の子孫と聞いています。
「混じり気のない個体」として、
もっと累代の進んだものを今も維持しているショップがありますね。

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昨年冬、採卵したものの一部です。
今年の1月、丁度孵化した個体がいたので撮影しました。

続けるにはやはり、ある程度の数を手元に残しておくのが重要だと感じています。
現にWF8世代では、2匹目の♂を掛けるまで無精卵が連発しました。

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♂その1(63.8g)

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♂その2(67.9g)

どちらの個体も今年7月に撮影しました。
同腹♀含め高添加のマットを与えることはせず、
優しい仕上がりのマットでじっくり育成しています。

数が少ないのでペア飼育に加え、♀の単独飼育ケースは飼育部屋より低温で管理し、
羽化ズレを可能な限り抑える方法をとっています。

インラインでどこまでいけるのか、という挑戦に加え、
個人的に気になる他血統とのアウトブリードにも着手していきます。